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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(オ)953号 判決 1977年11月24日

上告人

四日市クレーン有限会社

右代表者

落合重男

右訴訟代理人

早川登

桑原太枝子

被上告人

窪田絹代

外一名

右法定代理人親権者

窪田絹代

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人早川登、同桑原太枝子の上告理由第一点について

自動車損害賠償保障法二条二項にいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」には、自動車をエンジンその他の走行装置により位置の移動を伴う走行状態におく場合だけでなく、本件のように、特殊自動車であるクレーン車を走行停止の状態におき、操縦者において、固有の装置であるクレーンをその目的に従つて操作する場合をも含むものと解するのが相当である。したがつて、原審の適法に確定した事実関係のもとで、右と同旨の判断のもとに、本件事故は本件クレーン車の運行中に生じたものであるとし、亡窪田定夫の死亡との間の相当因果関係をも肯認して、上告人に対し同法三条所定の責任を認めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点及び第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(団藤重光 岸上康夫 藤崎萬里 本山享)

上告代理人早川登、同桑原太枝子の上告理由

第一点 控訴審判決は、自動車損害賠償保障法三条に違背している。

控訴審判決は、上告人(控訴人・被告)の責任原因について、一審判決を引用し『自動車が、エンジンその他の動力等により「位置の移動」を伴う「走行」状態にある場合のみならず、本件クレーン車等の場合のように、自動車が一般交通の場たる道路上に一時停止して、特殊自動車たる右クレーン車のその固有の装置のその目的に従つて操作し、クレーンを操縦している場合をも、その「運行」の概念に含ましめるものと解するが、自動車による特殊の危険から被害者を保護せんとする自動車損害賠償保障法の立法目的に即応するものと解する。』として『本件事故は、本件クレーン車の「運行」中に生じたものであるから、同法三条により本件事故につき被害者に生じた損害を賠償する責任がある。』と判断した(判決理由三)。これは、自動車損害賠償保障法三条の解釈適用を誤つたものである。

上告人は、自動車損害賠償保障法は自動車が走ることから生ずる特殊な危険性をもつことに焦点を合わせたものであるから、発進から停車までを「運行」と解し、駐停車中の事故については、その前段階である「運行」との因果関係の存否によつて自動車損害賠償保障法の適用の有無を決すべきであると解する(「交通事故訴訟の課題」実務民訴講座3二九ページ、「運行の概念」判例タイムズ二一二号三六ページ、注釈民法(19)一〇二ページ等参照)ものであるが、本件の事故は、クレーン車を固定してクレーンを操作し、転落した自動車の引揚作業中に発生したものであるから、自動車損害賠償保障法三条の「運行」に該当せず、また「運行」との因果関係も無いと考える。

第二点 <省略>

第三点 <省略>

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